「グッドネイバーズ」を育む千葉市の「リノベーションまちづくり」で広がる、「裏チバ」のつながり
近年よく目にするようになった「リノベーションまちづくり」。遊休空間をはじめとするまちの既存資源を活用し、民間主導でまち暮らしの魅力を高めたり課題解決を図ったりする中で、「グッドネイバーズ」(良きご近所)を育んでいく取り組みのことを指している。千葉市はいち早くこの取り組みを開始し、今年で早くも11年目となる。
地域全体で動かしていくことを念頭においてスタートした本プロジェクトが、どのように進行していったのか。プロジェクトに関わる地域の皆さんともご一緒いただきながら、千葉市役所まちづくり課リノベーションまちづくり班の長島さん、浅野さんにお話を伺った。
小さな個性が集まることで、大きな変化を生み出しつつある「千葉」駅西口の可能性
――まず千葉市でリノベーションまちづくりを推進するきっかけや背景についてお教えてください。
浅野さん:大きく分けてきっかけは2つあります。まずは、2013(平成25)年に竣工した「千葉」駅西口での再開発ビル。その流れの中で、千葉市もビルの一部を所有することになったのですが、当初多くの空室もありました。これを何とかして解決しようとしたことが、きっかけの一つです。
また、ちょうどその頃「千葉」駅の東側では大型商業施設の閉店をはじめ、少し寂しさを感じ始めていた時期でした。一方で「千葉」駅の西側では、小さくてもいろんな人たちがそれぞれの個性を発揮したお店を出し始めていました。これをみて、何か新たな試みができそうだと動き出したことが、もう一つのきっかけです。
――まずどのようなことから始められたのでしょうか。
浅野さん:まず、2014(平成26)年に、ビルのテナントの皆さんと連携し、イルミネーションを行いました。これまでは誰かに協賛金をいただいたり、行政の資金を使ったりして大規模なイベントをやることで「活性化」を図ろうとすることが主流でしたが、そういったものに頼らず自力でやってみようとしたんです。特に、補助金に頼ってやろうとすると、持続的な事業は成り立たないということを皆で話し合いました。その上で、エリアの中でお金を循環させる仕組みづくりが重要だとなり、「千葉西口マルシェ」を始めることになります。
――「千葉西口マルシェ」とはどのようなイベントですか?
浅野さん:当初の動きをつくった「『WESTRIO(ウェストリオ)』テナント会」が中心となり、西口駅前広場を会場に、こだわりの商品やサービスを扱うお店を集めたマルシェを実施するイベントです。出店者さんともよく話し合い、その後さまざまに繋がりが広がっています。
ただ、当然イベントが終われば元の状況に戻ってしまいます。この時育まれた光景や良き関係性を、日常的なものにするにはどうしたらよいかが課題でした。この課題に一緒に立ち上がってくれた人たちと進めているのが、「リノベーションスクール」を核とした「リノベーションまちづくり」です。本日お越しいただいている方々は、リノベーションスクールを通して、その後の展開にご一緒いただいている方々です。
あらゆる可能性を秘める人たちがいる「裏チバ」の魅力とは
――「千葉」駅西口を皮切りに、現在は「裏チバ」にも活動を広げています。なぜ「裏チバ」を重点的に取り組むエリアとして選んだのでしょうか。
浅野さん:「千葉」駅エリアを考えた時に真っ先に思い浮かぶのは、大きな施設もたくさんあって開発も進んでいる東側ですよね。だからこそ、僕たちはその「裏側」に着目しました。新しいチャレンジを、いろんなメンバーとやってみたかったんです。小さく積み上げていきチャレンジできる場が多いスタイルを考えた時に、自然とこの「裏チバ」にたどり着きました。
――ではここでリノベーションまちづくりのメンバーの皆さんにお話を伺います。この取り組みに参加されたきっかけは何でしょうか。
寶川さん:僕は裏チバで「TREASURE RIVER book cafe」という店をやっています。僕は元々まちの中で、「千夜市夜」というイベントやっていました。これは、謎のコラムを裏チバ周辺の店舗さんと、イベントで発表するという活動でした。その頃から僕たちはこの周辺を「裏チバ」と呼んでいて、当時「裏チバマップ」を作ったりもしていました。
寶川さん:そんな時、浅野さんがお店に来てくれました。そこで話した中で、この裏チバは横の繋がりが弱いんじゃないかという話があがりまして。僕たちの活動に続く人たちが、たくさん出てきてくれるにはどうしたらよいか、一緒に考え始めたことがきっかけだったと思います。
――この活動の前から、裏チバエリアについて動いていたのですね。
寶川さん:そうですね。ですので、大きく何か変えているかというと意外とそうでもない。これまでを継続して、さまざまな形でやっているような感じです。その活動の内容も緩やかに自然な感じで続けられています。
――柏さんはどのようにして「リノベーションまちづくり」に参加されたのですか?
柏さん:私は大学進学を機に千葉に引っ越してきました。当時西口の屋台販売のアルバイトしていた時に、浅野さんがいらっしゃって。そこでリノベーションスクールの話を聞いて、興味を持ったことがきっかけです。私は大学で空間デザインを学んでいましたが、大学だけでは知り合えない人と出会えるのが良かったです。
――どのような活動で参加されたのでしょうか。
柏さん:元々子どもが好きということもあって、子ども向けのワークショップを開きました。子どもたちに私が描いたお花をひとつずつ選んでもらって、オンリーワンの花束を作ってもらうワークショップ「OKUTTE」を開催しています。気軽にお花を買えない子どもたちでも、紙に描いたものなら、簡単に遊びながら花束を作れるなと。またスペースの問題で家に本物のお花を飾るのが難しい場合でも、紙なら置いてもらえると思いまして、開催しました。
――奥居さんが参加されたきっかけは何ですか?
奥居さん:僕は「西口駅前de屋台販売」の話を浅野さんからいただいたことがきっかけです。当時お菓子を作るアメリカ人の友人から「作っても売る場所がない」と相談されていまして、タイミングも良かったものですから、一緒に立ってみるっていうことで始めました。その後リノベーションスクールの話を聞いて、手伝いを始め、今に至ります。
――全て浅野さんからのお声がけなのですね。
浅野さん:もうほとんどナンパです(笑)僕が高校生の時の記憶だと、「裏チバ」エリアはなかなか行く用事がないイメージでしたが、今では良いなと思うと遠慮なく突撃しています。
僕は大学で空間の勉強をしていましたが、新しい建物を建てれば暮らしやまちが変わるのではなく、建物や周辺環境との「間」が大事であることや、そこで営まれる事業が社会を動かしていると学んできました。裏チバの状況を見極めながら、個性のあるメンバーを一緒に巻き込みつつ、できることを考え続けています。
裏チバの現在進行中のプロジェクト
――現在進行中のプロジェクトや、これまでに実現した成功例を教えてください。
寶川さん:元々まち歩きの促進のために、周辺のお店にインタビューをしていたのですが、柏さんと「ちばっぷ」という地図を作っています。
裏チバを中心とした、ジャンル別の個人店マップです。裏チバには面白い店が点在しているのですが、なかなかまち歩きまでは足を運んでいただけません。そこで、ジャンルを絞ってよりピンポイントのターゲットに刺さるコンテンツを作成し、手に取ってもらえるように工夫してみました。例えば、コーヒーのマップ、ファッションのマップなどです。
今回は特別版として各店舗へのインタビューも掲載しています。
浅野さん:僕らの取り組みが成人式を取り仕切る部署のメンバーの目に留まりまして、寶川さんたちと連携して「千葉ポートアリーナ」の成人式で配布させていただくことになりました。市役所内のタテ割りを超えて、「横串」(分野を超えた連携)が刺さり始めた大事な一歩でもあります。
――奥居さんはいかがですか。
奥居さん:僕は1999(平成11)年から西千葉で鞄屋をやってましたが、今は西千葉と「千葉」駅の間に移転して、鞄屋にカフェを併設した「cafe5」を運営しています。
また、今年、まちづくりの会社を立ち上げました。これまでボランティアでリノベーションスクールをお手伝いしていましたが、個人では限界がありました。今後大きい企業やさまざまな人との交渉の際、会社があった方がなにかと便利なので。
この会社で行ったことの一つに、「cafe5」で仲間が昔やっていたバー(「呼吸」)を復活させたことがあります。僕は西口に文化的なものを持ち込みたく、癖のある人を集めたいと10年ぶりに復活させました。今はまだ小さいですが、もっとにぎわう仕掛けを考えたいと思っています。身内の連れてきた人だけではなく、あそこを通る人、金曜日の夜にお酒が飲めて音楽が聞ける場があれば面白そうだなって。
奥居さん:それから、「そごう千葉店」さんがリノベーションスクールに参画した中で、元々自分の店でやっていた「絵本カフェ」を「そごう千葉店」さんでもやっています。子どもたちが楽しめて、親も楽しめるように企画したイベントです。今は「そごう千葉店」さん演出のもと出展しているのですが、市民がいろいろ提案してそこを自由に使える仕組みを考えています。
――市からの補助金なしで行うには、その分大変な面もあるかと思います。それを乗り越えられるのは、やはりまちをよりよくしたいという熱いお気持ちが原動力なのでしょうか。
浅野さん:そのような熱は感じます。やっぱりまちへの愛着から始まっているんでしょうね。または人とのつながりで参加されている人もいます。ただ奥居さんが言われるようにそれだけでは限界があって、事業性がないと続けようがないため、きちんとこの流れを事業化していきたいと思います。
寶川さん:周辺の人たちは、このまちに対してある程度満足しています。話を聞けば聞くほど、現状に満足している。でも僕たちは、もっとやれるのではないかという可能性を見ています。何もしなければ、将来的にゆっくり衰退していくのが見えている中、それに対してどうアプローチできるか。「なんかやれるかも!」と思っている面々が、たまたま千葉市ではリノベーションスクールを通して活動を行っているという流れがあるような気がします。
浅野さん:ここまで大きな「千葉」駅というターミナルの真横で、こうした関係性、「グッドネイバーズ」が育まれているというのが実は一番ユニークなのではないかと思います。
今後「千葉」駅西口エリアに住まわれる方にメッセージ
――最後にこの周辺に興味のある方、これから住まわれる方にメッセージをお願いします。
寶川さん:裏チバは、治安がとても良いです。住宅街と小さいオフィスビルが混在しているエリアで、古いお店は個性的なこだわっている店もあって、飽きずに楽しめるまちだと思います。
奥居さん:駅の反対側になりますが、「千葉公園」もすごく変わりました。古いお店と新しいお店が混在しているようなところもあり、その辺も魅力です。あのままの雰囲気を保ちたいですね。
柏さん:私のように大学の進学で来た人たちは、「週末に行くなら東京」という人も多いと思いますが、ぜひ西千葉や裏チバを散歩したりしてほしいです。知っている人がいるという安心感や、踏み込んでやりたいことができたことが、私はうれしかったので。
長島さん:裏チバエリアは、まちのインフラ整備が終わっています。インフラ整備がちゃんと整った上でまちが発展しています。街灯もあり道路も広いですし、安心して暮らすことができます。
また駅にも近く、利便性の高いエリアです。人口も増えていますし、都会でありながら港に近く自然が豊かです。単なる住みやすさだけではなく、こうして面白い活動している人たちもいますし、住まわれる方にはぜひ一緒になってまちをつくっていただきたいと思います。
浅野さん:今日集まっているメンバーはもちろんのこと、テナント会時代からこれまで、民間の方も行政の中にも、共に歩んでくださっている仲間になってくれる人がたくさんいるというのが、やっぱりこのまちの魅力だと思います。ぜひ、その輪の一員として楽しんでいただけるとうれしいなと思います。

千葉市役所
千葉市役所まちづくり課リノベーションまちづくり班 長島さん、浅野さん
cafe5・ニシノマジョ代表 奥居さん
TREASURE RIVER book café店主 寶川さん
design_oakワークショップ 柏さん
所在地:千葉県千葉市中央区千葉港1-1
電話番号:043-245-5328
URL:https://www.city.chiba.jp/toshi/toshi/machizukuri/renovation.html
※この情報は2024(令和6)年12月時点のものです。