第3回:KSEL主催の「理科の体験農園」に参加してきました!(2015/10取材)
KSELの活動に注目!
これまで、2回にわたって「東京大学 柏キャンパス」の大学院生を中心に活動する「柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)」の取り組みを紹介しました。今回は自然のなかにある「なぜ」を探求しながら理科を学ぶ原体験の場「理科の体験農園」を見学させていただきました。企画の特色やその魅力についてレポートします!
「理科の体験農園」の地域との関わり
2015(平成27)年10月12日快晴。「柏の葉キャンパス」駅から徒歩約15分の住宅地で、「理科の体験農園」は開催されました。集合場所の東武バス「入谷津」停留所にたどり着くと、目の前にある黄色い建物の裏手に活動場所があることを知り、少なからず驚きを感じました。一般的な農業体験からイメージする広々とした農地とは異なり、建物の裏手にある10坪ほどのスペースは、日当たりにも恵まれず、農作物に適した環境とは思えなかったのです。
もともとこの場所はこだわりの紅茶とケーキを提供するカフェとして、地元でも人気のお店でした。閉店にともない空き家状態となって、所有者が管理に困っていたところを、柏市の「カシニワ制度」を活用してKSELが借り受けたそうです。
行政サービスを活用して、地域の課題にも応えるKSELの取組み
2010(平成22)年よりはじまった「カシニワ制度」とは、柏市の公園緑政課が推進する事業のひとつ。市内の空き地などを、地域の方々が有効活用することで自然環境の保全・創出につなげたり、地域のあらたな交流のスペースにすることでコミュニティのつながりを深めることを目的としています。「貸したい」土地の所有者と「借りたい」市民団体などとを行政が橋渡しする、全国的にも珍しい試みです。
柏市内にはおよそ1,000ヵ所の空き地と、推計で20,000件から30,000件もの空き家があります。人の手が入らないことで街の景観を損なったり、犯罪の温床や放火の標的になってしまう可能性も高く、空き家問題は地域にとって大きな課題となってきました。
「カシニワ制度」によりこれまで40ヵ所ほどの空き地や樹林地が「カシニワ(=柏の庭、地域の庭)」として生まれ変わっています。花壇を整備して街並みの美化につなげたり、整備した庭を使ってマルシェなどの地域イベントを開催したり、間伐などを行い植物相が豊かになった樹林地で自然観察会を行ったりと、さまざまな活動が展開されています。
そして、KSELの「理科の体験農園」も空き家の庭を活用して空き家問題解決に資するあらたな事例として、注目を集めています。
目にするもの・手にしたものすべてを学びに変えるKSELの視点
8月23日に初めての活動をしてから、今回で第4回目の開催となる「理科の体験農園」は、過去の活動に参加したことのあるリピーターと、今回が初参加の方々を迎えて始まりました。活動はリピーターのグループと初参加のグループとに分かれて行われます。リピーターのグループは過去に開墾・植えつけなどをして育てているはつか大根と白菜の経過観察を、初回参加者のグループはあらたな作物を植えるための草むしり(開墾)に取り組みました。
ともすれば単純な骨折りの草むしりも、KSELの活動においては発見と気づきの連続!子どもの身長をはるかに超える地下茎の長さに驚いたり、セミの抜け殻を見つければ「これはオスでしょうか?メスでしょうか?どこで見分けられるのかな?」とクイズ大会がはじまったりと、目にするもの手にしたものすべてが学びにつながることにあらためて気がつかせてくれます。
一方、経過観察に取り組むリピーターのグループは、紙と鉛筆を使ったスケッチからはじめました。葉っぱのかたちや葉脈などを丁寧にスケッチすることで、自然科学の基本とも言える“観察力”を養うもので、大人も子どもも時間を忘れて楽しみながらスケッチする姿に、KSELならではの学びのスタイルが広がっていると感じました。
2012(平成24)年からKSELのメンバーとして活躍する紺野さんも、もともとはKSEL主催のイベントに参加したお客さんのひとりだったそうで、「KSELの活動が好きになり、スタッフとして関わっています」と、参加者と一緒に楽しみながら現場を盛り上げている様子が印象的でした。
参加費無料で子どもから大人まで誰でも参加できるこの「理科の体験農園」は、2時間という限られた時間のなかで草むしりから土を耕し、畝を作り、植え付けまで行う充実した内容。時折、土の中から現れる幼虫やミミズなどに歓声を上げながら全身を使って理科を学ぶことができる貴重なひとときでした。
今後は収穫のタイミングを見計らって、自分たちの手で育てた野菜を調理して食べるところまでを一連の取り組みとして行うようです。「収穫して食べることが目的ではありません」と語るKSEL会長の羽村さん。
あくまで実体験を通して学びを得ることが目的であり、農作物の出来不出来が問題ではないと話します。初めて活動場所に到着したときに感じた「農地には適さないのでは」という疑問は、今回の体験を通して拭い去られていました。管理に困っていた空き屋の庭は、子どもたちにとってより良い理科の教材へと姿を変えています。
街にあるさまざまなものを巧みに利用し、多くの方が理科に興味を持てるようにと理科の体験農園をはじめ、多彩な取り組みを企画するKSELの姿勢にあらためて魅力を感じました。
他の参加者の方にもお話を伺いました
ー参加のきっかけは?
お子さん:お兄ちゃんの友だちが「理科の体験農園」に参加しているのを聞いて、面白そうだなと思ってお母さんと2人で参加してみました。
お母さん:近くに住んでいるのですが、自治会や地域の活動の機会が少なくて、子どもに地域とのつながりを感じてもらえればと思い参加してみました。子どもも土いじりが好きなので、今回の体験をきっかけに自宅でも野菜づくりに挑戦してみようかと思います。
お子さん:
自分でトマトを作って苦手なトマトを克服したいと思います。
今回のイベント
理科の体験農園
主催:柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)
開催日(第4回実施日):2015(平成27)年10月12日
http://udcx.k.u-tokyo.ac.jp/KSEL/
※2015(平成27)年10月実施の取材にもとづいた内容です。記載している情報については、今後変わる場合がございます。