スペシャルインタビュー

誰もが参加できる、科学体験を通したコミュニケーションの場「柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)」

「東京大学 柏キャンパス」の大学院生が中心となって設立された「柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(以下、KSEL)」。科学を通したコミュニケーション活動を展開するKSELは、研究・教育機関が多く、公民学一体の街づくりが進められている柏の葉エリアだからこそ誕生し得た団体とも言える。
今回は、「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」で開催されていたイベント「研究者に会いに行こう!」の日に、KSEL会長の羽村さんに、団体の取り組みや特徴についてお話を伺ってきた。

会長の羽村さん
会長の羽村さん

―まずは、KSELの概要について教えてください。

当団体は2010(平成22)年6月に設立されました。科学コミュニケーション活動を通じた地域交流の活性化をテーマに掲げ、東京大学の大学院生が中心となって立ち上げた団体です。活動拠点となっている柏の葉は、東京大学をはじめとして、科学の研究・教育拠点であると同時に公・民・学の連携により、スマートシティとしての開発が進められているエリアです。しかし、こうした特徴に魅せられた人々がこの地域に流入し、新しい街が形成されつつあるものの、一方では研究機関と市民との交流が少なく、相互理解が進みづらい状況にありました。

この日の「研究者に会いに行こう!」は、東京大学の大学院生による講座だった。
この日の「研究者に会いに行こう!」は、東京大学の大学院生による講座だった。

―そういった課題がある中で、研究機関と市民との“接点”の役割を担うのが「KSEL」ということですね。

はい。これまで「サイエンスカフェ」や「理科実験教室」をはじめ、地域で様々なイベントを開催してきました。そうした当団体の活動が認められ、「東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞(地域貢献)」や「千葉県知事賞」の受賞、「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」では優秀賞をいただき、さらには「柏市 市民公益活動団体」にも認定していただきました。地道な活動ですが、このような評価をいただけたというのは我々としても大きな励みになります。

―2018(平成30)年1月には、「柏」駅付近に新たな活動拠点「手作り科学館 Exedra」を開館されたとお聞きしました。

地域の方々が、身近で気軽に科学にふれられる場をつくりたいとの思いから、団体のメンバーで空きアパートを改修して開館させました。“Exedra”とは、科学や哲学のルーツとなる議論が行われた古代ヨーロッパにおける“集会所”を意味する語です。ネーミングの由来は少し堅苦しいですが、現場は手づくり感のある科学館に仕上がっているので(笑)、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいですね。開館時間は毎週土・日曜日の午前10時~午後5時で、ボランティアによって運営されています。

「手作り科学館 Exedra」の大きな特徴は、研究者や現役の大学院生たちに直接会って話ができる点です。誰もが気兼ねなく議論を交わしながら最新の科学にふれることができ、科学への理解を深めていく、大学の特別公開のような場となっています。展示物も来館者やイベントの参加者と共に製作するなど、地域の皆さんと一緒に作り上げていく工夫を随所に施しています。オープン初年度にあたる、2018(平成30)年度の来館者は約1,000名で、イベントの参加者も合わせると2,300名を超えます。

子どもたちにも科学に興味を持ってもらえるような入口が用意されている
子どもたちにも科学に興味を持ってもらえるような入口が用意されている

―“地域の皆さんと一緒に作り上げていく工夫”とおっしゃいましたが、地域との連携について他に事例がありましたらぜひお聞きしたいです。

看板やプロモーションビデオの制作を地元企業にお願いしたほか、職業訓練機関や社会福祉施設とも連携しています。また、「手作り科学館 Exedra」の年間パスポートは柏市のふるさと納税返礼品にも登録されましたし、教育委員会の事業や、街で開催されるイベントにも要請があれば積極的に参加しています。実験室では、毎月複数の講座を開催し、次世代の担い手たる科学コミュニケーターの養成講座も開講しています。いずれは研究機関を内包するとともに、市民科学者を育成し、地域の皆さんと一緒に研究に取り組んでいけたらと考えています。

イベントを見守る保護者の方々。KSELは大人向けのイベントも開催しているので、要チェックだ。
イベントを見守る保護者の方々。KSELは大人向けのイベントも開催しているので、要チェックだ。

―本日のイベント「研究者に会いに行こう!」についてご紹介ください。

「研究者に会いに行こう!」は、大学院生や若手研究者などが取り組んでいる研究テーマに関連した内容がベースになっており、実験や工作などを交えながら、自身の研究、専門分野について、また研究現場の様子を分かりやすく紹介するイベントとなっています。近年、研究者という職業に注がれる眼差しが熱くなっていることを踏まえ、我々がそのロールモデルを示すとともに、子どもたちの科学・理科への興味・関心を高めることに寄与できたらと考えています。「研究者に会いに行こう!」のシリーズに参加している子どもの中には、回を重ねていくうちに、視野が広がり、生き生きとした表情になっていく子どももいます。こうした場面に出会えると、我々としても本当に嬉しいですね。

参加された方々からは高評価をいただいているものの、空席が目立っているという現状もあります。大人を対象とした講座も毎月実施していますし、継続は参加希望者がいてこその話ですから、ぜひ多くの方にお申込みいただければと思っています。

科学イベントと言っても、子どもたちも楽しく参加できる多くの工夫が考えられている
科学イベントと言っても、子どもたちも楽しく参加できる多くの工夫が考えられている

―団体設立から約9年が経ったということですが、この数年間で感じる変化があれば聞かせてください。

やはり大きいのは、定常的な活動を行う拠点「手作り科学館 Exedra」ができたことですね。拠点があることで「KSEL」のメンバーだけでなくそれ以外の方も気軽に集まることができますし、メンバー同士の一体感も増しました。さらにはイベントの準備・片付けのコストも大きく削減できるといったメリットもありました。結果としてイベントの質が向上し、地域における多様なステークホルダーとの連携に力を注げるようになったと感じています。活動の幅が広がったことで、社会課題・地域課題の解決に向け、様々な取り組みをイメージできるようになりました。

熱心に話に耳を傾ける子どもたち
熱心に話に耳を傾ける子どもたち

―2020(令和2)年で設立10周年を迎えますね。今後の展望があればぜひ聞かせてください。

「手作り科学館 Exedra」の設立と前後して、多くのマスコミに取り上げていただけるようになりました。課題としては、地域の限られた方にしかまだ知られていないという現状があります。これまで以上に多くの方に興味を持ってもらえるような活動を続け、科学コミュニケーションの環を広げていけたらと思います。

また、最新の成果を追い求める科学研究をしながら、地域課題の解決にも挑戦し続けたいですね。たとえば地元農家との協業や空きアパートの利活用、過疎地における交流人口の増加、特定外来種に関する啓蒙などです。こうした取り組みを加速させながら、将来的には小さな私設科学館を各地に設置し、その地域・生活に合った形で科学が根づくような社会づくりに貢献するというのが、我々の目指しているところです。

今回、話を聞いた人

柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)
羽村太雅さん

所在地:千葉県柏市若柴227-6 柏の葉キャンパス147街区コモンA棟
URL:http://udcx.k.u-tokyo.ac.jp/KSEL/

※この情報は2019(令和元)年6月実施の取材にもとづいた内容です。記載している情報については、今後変わる場合がございます。

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