柏の葉を国のモデル地区へと導いた、「柏の葉アーバンデザインセンター」
つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅周辺をフィールドに、柏市、三井不動産株式会社、首都圏新都市鉄道株式会社、柏商工会議所、田中地域ふるさと協議会、東京大学、千葉大学が連携して次世代のまちづくりを推進する「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」。公・民・学がそれぞれの役割を担いながら、独自のプロジェクトを企画・推進している。今回は、そんな「柏の葉アーバンデザインセンター(以下、UDCK)」の副センター長を務められている三牧浩也さんに活動内容や柏の葉エリアのまちづくりについてお話を伺った。
公・民・学の連携で、多様で複合的な課題に取り組む
―「UDCK」が設立されるまでの経緯を教えてください。
きっかけは、「東京大学」の教授だった故・北澤猛先生の提案です。北澤先生は長年、都市デザインに携わられてきた方で、2006(平成18)年4月にまちづくりの拠点施設の必要性を説きました。同じく6月には、三井不動産からも同様の施設に関わる提案があり、まさにまちづくりに関わるさまざまな立場の人たちが、お互いの連携のあり方を模索していた時期だったんです。そしてその年の9月には「UDCK」の骨格が決定。そして2006(平成18)年11月20日に「UDCK」が開設されました。提案からわずか半年で、日本で最初のアーバンデザインセンターができたわけです。
―これまでの歩みを教えてください。
2007(平成19)年には「まちづくりスクール」や「ピノキオプロジェクト」など、今も続くさまざまなプロジェクトがスタートしました。2008(平成20)年に具体的な目標と方針を定めた「柏の葉国際キャンパスタウン構想」を策定。2011(平成23)年に世界の未来像をつくる街「柏の葉スマートシティコンセプト」を発表。2016(平成28)年には「柏の葉アクアテラス」をオープンさせました。今年の5月には、柏市と三井不動産と一緒に幹事を務める「柏の葉スマートシティコンソーシアム」が国土交通省の「スマートシティ先行モデルプロジェクト」に選定されました。
―「UDCK」の基本理念である“公・民・学の連携”には、どのような役割がありますか。
街にはさまざまなものが求められます。利便性や安全性はもちろん、人との交流やビジネスチャンスなど。加えて、環境負荷の低減や高齢社会への対応、地域経済の活性化といった課題はどんどん多様化し、複合的になっています。当然、単純な解決策では対応しきれません。だから、公共・民間・大学が協働して取り組む必要があるんです。「UDCK」は7つの団体が共同運営している組織です。行政も入っていますが行政主導ではありません。いろんな人が対等に話し合ってアイディアを出すので、自然と議論も深まります。
―柏の葉は新しい街だと思います。若い人の意見も参考になるのではありませんか?
そうですね。確かに学生たちも積極的で、おもしろい案をたくさん出してくれています。例えば、今後、街に植える木々の苗を住民で育てるというもの。「緑あふれる街」というコンセプトに合っていますし、更地の有効活用にもなる。苗が大きく育って実際に街に植えられたら、街への愛着もさらにわくと思います。まさに未来志向の夢のあるアイディアだと思いました。
「働きながら暮らす街」をめざして
―これまで一番反響の大きかった取り組みは何ですか。
まちづくりの担い手を育てる市民講座「UDCK まちづくりスクール」もそうですが、子どもが主役のアートプログラム「ピノキオプロジェクト」は根強い人気がありますね。なじみのある街で職業体験ができるというわかりやすさが響くのでしょう。毎年、試行錯誤をして新しいテーマで取り組んでいます。今年のテーマは“防災”。子どもが街のためになることをするという、今までとは少し違った内容です。実は今年のプロジェクトの企画や準備には、小学生のときに「ピノキオプロジェクト」を体験した高校生や大学生も関わってくれているんですよ。
―「UDCK」の現在の取り組みについて教えてください。
開発が駅前から外側に拡がっていくなかで、まだ多くある更地にどのような街をつくっていくのか、という課題に注力しています。まちづくりの成功事例として知られるオレゴン州ポートランドにあるパール地区を参考に、マスタープランを作成しました。「建物の1階にレストランなどを入れて賑わいや交流を生み出す」、「住宅だけではなく企業にも来ていただき、街の多様性を創り出す」といったことです。今は実際に企業誘致も本格化させています。企業はその街で優秀な人材を確保したいと考えていますから、優秀な人材をアピールすることが大事。住む人と働く人の割合を考えながら、「働きながら暮らす街」をめざします。
―まちづくりを進めていくにあたり、心がけていることはありますか。
どのプロジェクトにも、さまざまな形で協力してくださるプレーヤーがいます。知恵を出す人、お金を出す人、形にする人。その人たちに、きちんと成果を返せるように心がけています。研究者の方に協力していただいたら、後から論文などで成果を発表できるようデータをきちんと取れるように気を付けますし、住民の方であれば、生活環境の向上につながっているか、純粋にやりがいや楽しさが感じられるものになっているかということに配慮しながら、関係をつくっていくことが大事だと考えています。
緑あふれる学術都市、柏の葉エリア
―全国にあるアーバンデザインセンターですが、柏の葉ならではの特徴はありますか。
この街には「東京大学」や「千葉大学」のほか、「国立がん研究センター」や「産業技術総合研究所柏センター」などがあり、最先端の研究を行う人たちがいます。それが柏の葉の強みでしょう。おかげで、膨大なデータを使ったライフスタイル分析など、新しい技術を活かした企画や取り組みができています。
―「UDCK」が目指す、柏の葉エリアの未来について教えてください。
やはり住んでいる人が幸せに暮らせる街ですね。その中でも、新しい発想や取り組みが生まれ続けていくような街になってほしいです。柏の葉エリアは5月に国のモデル地区になりましたし、街づくりの発想や姿勢はちょっととんがっているくらいがいいのかな、と思っています。
―最後に、柏の葉エリアの魅力について教えてください。
最先端の知識に触れられることでしょうか。また、住民アンケートを見ると「緑が多くて歩道が広いのがいい」という声が多いですね。「街中に出てみたくなる」とか「ジョギングしたくなる」など。豊かな緑はコンセプトのひとつなので、この点が住民の方に喜んで頂けているのは非常に嬉しいです。
今回、お話を聞いた人
副センター長 三牧浩也さん
所在地:千葉県柏市若柴178-4 柏の葉キャンパス148-4、東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライト103
電話番号:04-7140-9686
URL:https://www.udck.jp
※この情報は2019(令和元)年8月時点のものです。