スペシャルインタビュー

人口も企業も順調に増加
エコで災害に強い「柏の葉スマートシティ」

先端技術を駆使した効率的な管理・運営の下、環境に配慮しながら快適な暮らしを目指す、“スマートシティ”。千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」はまさにその先駆けであり、2019(令和元)年5月には国交省のスマートシティモデル事業の先行モデルプロジェクトにも選ばれている。今回、柏の葉の街づくりに尽力する三井不動産株式会社の佐藤さんに、街のコンセプトや取り組み、今後の展望についてお話を聞いた。

柏の葉街づくり推進部 佐藤正宏さん
柏の葉街づくり推進部 佐藤正宏さん

街のコンセプトは「課題の解決」

―まず、「柏の葉スマートシティ」の概要をお聞かせください。

佐藤さん:「柏の葉スマートシティ」は、「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」の3つをテーマに、日本が直面している様々な課題解決を目指す未来型の都市です。2005(平成17)年のつくばエクスプレス(以下、TX)開業とともに生まれた街で、公・民・学が連携してまちづくりに取り組んでいます。「柏の葉キャンパス」駅を中心としたコンパクトなスペースに、住宅、商業施設、オフィス、病院、大学などが集積している点が特徴です。駅前街区が完成した2014(平成26)年からは周辺エリアの開発に着手し、さらなる発展を目指しています。

―なぜ柏の葉にスマートシティが生まれたのでしょうか。

佐藤さん:現在の柏の葉エリアは、以前は弊社が所有していたゴルフ場でした。そこにTXの開通計画が持ち上がり、区画整理をすることになったのが始まりです。その頃に東京大学の教授により公民学連携の街づくりの必要性およびその枠組みが提唱され、それに賛同をした当社も街づくりに参画しました。

つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅
つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス」駅

―「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」というテーマは、どんな経緯で決まったのでしょうか。

佐藤さん:日本はよく課題先進国だといわれます。少子化、高齢社会、環境問題など、他国に先んじて多くの課題に直面しているという意味ですね。何を目標にまちづくりを進めるべきか話し合っていた時、課題先進国なら課題解決の先進国になれるはずだという考えに着地しました。そこで出てきたキーワードが「環境」「健康」「新産業」だったんです。
「環境」と「健康」は世界的な課題で、「新産業」は日本ならではの課題と言えるでしょう。このコンセプトが決まったのは10年ほど前ですが、まだ日本は閉鎖的な考え方が根強く、せっかく新技術ができても開発企業が独占して、企業の協働による新たな展開が生まれにくい状況でした。そこでオープンイノベーションを推進することにしたのです。

※「オープンイノベーション」…自社に加え、他社や大学、自治体などの異業種・異分野の技術やノウハウを掛け合わせ、地域活性化につなげていく方法論。

電力融通や企業誘致などの取り組みを実施

―「スマートシティ」は国内にもいくつかありますが、中でも「柏の葉スマートシティ」の特徴はどういった点にあると思いますか。

佐藤さん:2014(平成26)年に日本で初めて実用化された次世代送電網「スマートグリッド」でしょう。街の中心部に建つ商業施設とオフィスビルに太陽光パネルと大容量の蓄電池を設置して、その電力を融通し合う仕組みです。道路で分断されている街区間で電力を融通し合うのは難しいのですが、日立製作所さんの協力で可能になりました。
平日はオフィス、休日は商業施設で電力需要が高まるので、必要に応じて供給し合っています。これにより、電力会社から購入する電力量を減らせますし、CO2排出量の削減にも貢献できます。太陽光発電で蓄えた街の電力は、災害時に電力会社からの送電が停まったときにも役立ちます。商業施設やオフィスなどの電力を一括管理する施設を設け、各施設の電力消費量や送電状況をリアルタイムで確認しています。集合住宅の共用部の電力も管理しているので、非常用の電力を使い切っても電力を送ってエレベーターなどを動かせるのです。

エネルギ―管理を担う「柏の葉ゲートスクエア」。「柏の葉スマートシティ」の中核を担う施設だ。
エネルギ―管理を担う「柏の葉ゲートスクエア」。「柏の葉スマートシティ」の中核を担う施設だ。

―新産業の創造に関する取り組みも気になります。

佐藤さん:「KOIL」という施設を用意して、ベンチャー企業を集めています。約170席を有する日本有数の規模を誇るコワーキングスペースに加えて、オフィス利用できる個室が26区画用意されています。コワーキングスペースの個人利用から始めて、法人化したら個室オフィスを借りるという具合に、施設の中で成長していってくれるとうれしいですね。最近では、「KOIL」に拠点を持つ会社がゲノム解析によって乳がんと卵巣がんの遺伝子リスクを判定するサービスを始め、予防医療に大きく貢献する技術として注目されています。建物内にはベンチャー企業の支援団体のオフィスもあり、起業を目指す方にとって良い環境が整っていると思います。

住民が元気に過ごせるよう、多くのコミュニティを用意

―地域と連携して取り組んでいる活動も多いですね。人気のプロジェクトをご紹介いただけますか。また、どんな人たちが多く参加されているのでしょうか。

佐藤さん:コミュニティがたくさんあれば人々は楽しく元気に過ごせると考え、仲間づくりに役立つ地域イベントに力を入れています。継続して高い人気を誇っているのは、就業体験をメインとした子ども向けのイベント「ピノキオプロジェクト」です。あまりの人気ぶりに、以前は朝5時から行列ができていたので、一昨年から予約制にしました。英会話、自転車、料理など多彩な活動を楽しめる「まちのクラブ活動」なども人気がありますね。夏祭りにも親子連れからサラリーマンまで様々な人が訪れますし、多くのイベントに幅広い層の方が参加されている印象です。イベントが住民から受け入れられ、求められているのだと感じます。

「ピノキオプロジェクト」の様子
「ピノキオプロジェクト」の様子

―取り組みを継続してきて、柏の葉エリアにはどんな変化がありましたか。

佐藤さん:一番の変化は、なんといっても街に人が増えたことです。人口は右肩上がりで、2019(令和元)年には駅前エリアの人口だけで1万人を超えました。2030(令和12)年までには2万6千人まで増やしたいと考えております。企業も順調に増えていて、「KOIL」のオフィス区画が埋まってきています。現在はその「KOIL」に続く施設を建設中です。施設名などは未定ですが2020(令和2)年の10月くらいにオープン予定で、さらに新たなワーカーが増えるだろうと考えています。
また、子育て世帯の方々に多く選んでいただけており、安全安心で暮らしやすく、質の高い教育を受けられる街として評価いただけているのではないかと思います。

「KOIL」
「KOIL」

データ活用で、より便利で快適な未来社会へ

―柏の葉キャンパスエリアに、どんな将来像を思い描いていますか。また、そのために今後どんなことに力を入れていく予定ですか。

佐藤さん:近年は、いかに多くのデータを集めて有効に活用できるかが大事になってきています。「柏の葉スマートシティ」でも、街中にビデオカメラやセンサーを設置することで、お年寄りや子どもの位置情報をスマートフォンに通知するような、防犯や見守りのサービスの開発を検討しています。他にも、人や車の動きを予測して混雑を緩和したり、ウォーキングなどの健康活動を促したり、データを活用することで様々なことが可能になると考えています。今後は、私たち民間のデータに行政などが持つ公共のデータを合わせることで、より幅広い活用法を考えられるのではないかと期待しています。
2019(令和元)年11月からは、「柏の葉キャンパス」駅と「東京大学 柏キャンパス」をつなぐシャトルバスの一部区間で、自動運転バスの実証実験を始めています。来年度には路線バスに導入して本格稼働予定です。また、電車やバスなど複数の交通手段を使って移動する場合でも予約と支払いが一括でできる「モビリティ・アズ・ア・サービス(Maas)」も、2020(令和2)年3月くらいから実証実験を始める予定です。

―今後柏の葉キャンパスエリアが、周辺地域においてどんな役割を担っていくことを期待していますか。

佐藤さん:そうですね。このエリアで暮らす人や働く人の満足度を上げられるよう、先進的な取り組みにも積極的に取り組んでいるので、まずはこの地域の方々に「ワクワクできて楽しい」「支援が充実していて起業しやすい」などといったことを実感していただければうれしいです。その声が広がって、周辺地域にとって目指したい街の像が柏の葉になればよりうれしいですね。

今回、話を聞いた人

三井不動産 佐藤正宏さん
三井不動産 佐藤正宏さん

三井不動産株式会社 柏の葉街づくり推進部
事業グループ 佐藤正宏さん

所在地:千葉県柏市若柴178-4 柏の葉キャンパス148街区2 ショップ&オフィス棟KOIL6F
電話番号:04-7137-2227
URL:https://www.dataplatform-portal.jp/

※この情報は2020(令和2)年1月時点のものです。

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